2026/07/11 18:15

石黒幹朗は、鹿の生皮、石、落ち葉、膠など、自身の活動拠点である京丹波の森で出会う素材を用いて制作を行います。


落ち葉や石は山から、鹿皮は地域の猟師によって食肉用に解体された後、本来であれば廃棄されるものを譲り受けます。

石黒にとって制作は、特別な素材を探すことではなく、身近な環境の中にすでに存在しているものへ目を向けることから始まります。




「作るというより整える」と石黒は言います。

素材が持つ形、傷、時間の痕跡を消すことなく受け止め、その情報を丁寧に読み取る。そして、それら素材が本来持つ性質を損なわないようにかたちを整えます。


本展で発表される落ち葉を用いた作品は、砕いてペースト状にした葉を、膠(にかわ)で接着しながら成形したものです。

落ち葉は本来、森の中で微生物によって分解され、やがて土へ還り腐葉土となります。それは森の循環を支える存在です。


一方、膠は動物の皮や骨から抽出されるコラーゲンを主成分とする天然の接着剤で、古くから日本画や仏像の制作、文化財修復などに用いられ、絵具や素材を定着させ、作品を保存するために使われてきました。


その膠を介して、本来であれば土へ還っていく落ち葉に、一時的なかたちを与えます。膠もまた、湿度や温度に反応する素材です。


作品において接着とは、植物と動物という異なる生命の痕跡、分解と保存という異なる時間、人の手と自然という異なる作用を、一時的に結び付ける役割を担っています。



「自然界ではほとんど存在しない四角という形は、とても人間らしい形」と石黒は言います。

四角とは、建築や都市など人間が世界を整理し理解するために用いてきた基本的な形式です。

落ち葉を砕き、膠で接着し、板状にして構造を組み立てる。その行為には、人の秩序が確かに介在しています。


しかし、膠によって形を与えられた構造体は、その秩序から少し逸れるように湿気や乾燥といった環境の中で少しずつ歪み、反り、動いていきます。

人が与えたかたちは、自然の作用によって変化し続けます。そこでは、人の秩序と自然の時間が互いに作用し合い、一つの形の中で境界が曖昧になっていくのです。




石黒の作品が興味深いのは、それが一つの意味へと収束せず、建築や風景、皮膚や生物にも見えることです。何かを強く表現するのではなく、見る人が意味を見出す余白を残しています。


制作の軸として石黒が挙げるのは「曖昧さ」です。その曖昧さは、意味をぼかすためのものではなく、作品を一つの解釈に限定しない状態であり、見る人はそれぞれの記憶や経験を通して、異なる風景や意味を見出します。

作品は主体にも背景にもなり得るように、その見え方は固定されません。




本展では、落ち葉と膠による立体作品と、鹿の生皮を用いた作品を中心にご紹介いたします。

植物と動物、人と自然、保存と変化といった関係が、一つの造形の中で重なり合い、境界を曖昧にしていきます。私たちがものを見る前提そのものが、揺らぐような体感をしていただければ幸いです。



Mikio Ishiguro Solo Exhibition

「 中道 」


日程|7/18 sat — 8/3 mon

営業時間|11:00 — 18:00 

作家在廊|7/18, 19, 20, 8/3

休業日|水曜定休


ACCESS

【電車でお越しの方】

・名鉄東岡崎駅から徒歩約20分

・または名鉄バス「東岡崎駅 → 能見町」下車、徒歩3分


会場住所

愛知県岡崎市松本町1丁目107 松本107ビル 2F